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例えばいま自分がいる場所がどこかの「室内」だとしたら、どこかに「壁」があるはずだ。それを求めて、少しずつ移動してみるか? いや、室内などではなく、もしかしたら「どこかの崖っぷち」という可能性もある。もしそうだとしたら、崖の上に吹く風くらいは肌に感じそうなものだけど、風どころか空気の流れすら感じない状態なので、それは確率が低いだろうけども。
もし仮にここが室内だとしても、床に「落とし穴」のようなものが作ってあるかもしれない。むかし、そんな小説を読んだ覚えがある気がする。私のように暗闇に捕らわれた男が、床の感触を確かめながら進んでいたら、深い落とし穴みたいな溝を見つけた、みたいな……。
だとしたら私は何かしらの「処分」を受けているということにもなるのだが、私の何を罰しようというのか? 私は取り立てて特徴がないことが特徴と言っていいくらい、ごくごく平凡な男だったはずだが……?
と、ここで。むかし読んだ小説のことを思い出したこともあったのか、私はあることに気付いた。……そうだ、辺り一面真っ暗でも、私には「記憶」がある。私は「ここに来る前」、どこで何をしていたんだっけ……?
もしかしたら、それが何かの手掛かりになるかも。少なくとも、危険を冒して闇雲にここから動くよりはいいのでは。私はそう考え、薄れかけていた記憶の糸を手繰り始めた。
そうだ、私は……確か、会社の仕事を終えて帰宅する途中だったんじゃないのか。恐らくそれが、「直近の記憶」のような気がする。いつものように会社を出て、最寄りの駅に向かって、そして……。
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