言えなかったこと

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「でも、怖かった……」 「何が?」太一が問いかけると、六花はそっと彼を見て答えた。 「……太一を失うことが」 六花はその後また少し俯いて、さらに続ける。 「あの頃はさ、ずっと一緒にいたじゃない?最初は二人とも、仕方なくって感じだったけどさ……いつの間にか一緒にいるのが当たり前みたいになって、次第に一緒にいなくちゃ落ち着かなくなってきてさ……まぁ、太一はどうなのかわかんないけど、少なくとも私はそうだったのね……それで、太一が好きなんだってことに気付いて、ずっと一緒にいられる理由がやっとできたーって思ったけど、いざ付き合うことを考えると、怖くなった。もし、太一の理想の私と、現実の私が全然違ったらどうしようとか、もし嫌われたら、今までみたいに太一と一緒にいられなくなるんだろうなとか考えたら、すごく怖かった……」 六花はそこまで話し、大きく息を吐いてからまた太一を見る。 「……だからかな。付き合わなかった理由は」 彼女はそう続けたのである。そして彼女も同じことを太一に問いかけた。 「太一は?なんで私と付き合わなかったの?」 その質問に、太一はどう答えるべきか悩んだ。もちろん、付き合いたいという気持ちはあった。ただ、そのタイミングをことごとく逃してしまっていただけなのだ。そしてなぜ、そのタイミングを逃していたかとなれば、理由は六花と同じになる______。 「俺も同じだよ。六花を失うのが怖かった」 それを聞いた六花は笑って、「やっぱり私たち気が合うね」と言った。 「……だな」太一は言う。 「……俺にとっても六花と一緒にいるのが当たり前になってたから、その当たり前な時間を失うのが怖かったんだ」
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