言えなかったこと

12/14
前へ
/245ページ
次へ
「もしかしたら私たち、あまりにも近くにいる時間が長過ぎたのかもね……」少し寂しそうに六花は言う。 お互いの気持ちはわかっていたのに、失うことが怖過ぎて今の気持ちを伝えられなかった二人は、今やっと、お互いの心情に寄り添えるようになったのかもしれない。 もしかしたら今なら、あの頃に言えなかったことが言えるかもしれない______。太一はふと思い立って、彼女を呼ぶ。 「なぁ、六花______」 「んー?」 六花が太一の方を向き、聞き返したその刹那______。 俺は、ずっとお前が大好きだ______。 気付いた時には恋してた______。 気付いた時には自分の世界に君がいて______。 気付いた時にはどんな場面でも、見る景色は君の笑顔で溢れていた______。 それでもなぜか言えなかったあの頃の気持ちを、太一は吐き出したのだ。 今さらなんて、言わないでくれよ______? 太一はすぐに付け足した。すると、六花はその長い髪を耳に掛けながら微笑む。 ありがとう、太一______。 私も、あなたのことが大好きでした______。 きっと、太一ほど自分を愛してくれる人はもういない______。 そして、太一ほど自分が心から大好きだと思う人もいない______。 絶対に結婚相手には言えないことだけれど、六花にもあの頃言えなかったことがあるのだ______。 彼女はそう言った後、過去を思い返して空を見上げた。 あの頃に戻れたらな______。 彼女はそっと、そう呟く。
/245ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加