言えなかったこと

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「あの頃に戻ったら、付き合うか?」太一は聞いた。 「どうかなぁ……」六花は悪戯な笑みを浮かべながら言う。 「なんだよ、付き合わないのかよ」少し悲しそうに太一は言った。 「太一が変なところで意地張らなかったら付き合ってる」 六花はまた悪戯な笑みを浮かべて返した。その痛い返答に、「男ってのは意地っ張りなもんなんだよ」と少し不貞腐れている。 「じゃあ、今も?」 「あぁ。俺は意地っ張りなままさ」 「……ほんとそういうとこ」 「え?」 「……そういうとこ、嫌いだけど、好き」 「……どっちだよそれ」照れながら太一は聞く。 「どっちでもあるけど、どっちでもない」 「意味わかんないぞ、六花」 「太一には一生わかんないかもね」 「そんなことないさ!俺はやればできる子だから!」 「“子”って歳じゃないでしょ」 「歳のことは六花に言われたくないよーだ!」 このくだらないやり取りは、まるであの頃に戻ったかのようであった。これだけ嫌味や皮肉の応酬を続けていても、二人はずっと笑っている。あの頃も、気付けばこうして笑って話していた。しかし、二人とも大人である。ふとした瞬間に現実に引き戻され、途端に気恥ずかしい気持ちになって黙り込む。 太一は六花の横を並んで歩き、横目で彼女を見た。彼女は相変わらず綺麗な横顔をしている。あの頃と変わらない優しい顔である。太一はこの優しい顔をしている彼女に何度も助けられた。勉強のことも、悪い結果に終わってしまったが、小説のことも、また書けるようになったのは彼女に助けられたからである。 これだけ人のことを思い、動ける彼女だから、きっと、良い家庭を築くことだろう______。
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