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次の瞬間、彼に腕を強く引かれ…エレベーターの中へと引きずり込まれた。他の社員が乗ってくる前に“閉“のボタンを押した彼の行動に逆らおうとする者はいるはずもなく。
私と怜弥さんだけを乗せたエレベーターが静かに上昇し始めた。
「……で?これをどう説明する?一体何が目的なんだ?誰に雇われた?」
スマホの画面をこちらに向けて問い詰めてくる彼は、どうやら私のことをスパイか何かと勘違いしているらしい。
「いやっ…それは、違うんです」
「俺を陥れようとする以外に…こんな古い写真を持ち歩く理由が他にあるなら、説明しろ。」
「それは…ちょっと、、」
「……分かった。なら警察に、」
「はっ…初恋の人、、だったんです」
「……は?なんて…?」
「そのっ…だから、、初恋の人なんです。」
口に出してから、すぐに後悔した。
スマホの写真を見た時以上に、彼が迷惑そうな顔をしたように見えたから。だから─…
「その…怜弥さっ、、社長の、隣に写ってる…」
「……海江田?」
「…そう、そうなんです!海江田さん!彼のことが昔からずっと好きで忘れられなくて…それで」
嘘を、ついた。
「ほら、この写真…社長も写ってはいますけど、全然ピント合って無いですよね?」
「……まぁ、確かに。」
学生時代、怜弥さんを隠し撮りした際に隣にいた彼の親友─…海江田 凌輔さん。
急いで撮った例の隠し撮り写真は手前に座っていた海江田さんに僅かにピントが合っていて…
「卒業した今も、ずっと慕っているので…思わずスマホの背景画像に選んでしまいました」
初恋の人が海江田 凌輔さんだ、なんて。苦し紛れの言い訳をしてしまったのだった。
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