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「ご無沙汰しております、守谷様。その節は本当に申し訳ありませんでした」
見合い相手だった守谷 要人という男は、大手飲料メーカーの社長の息子であり、父の会社で副社長をしているとは聞いていたが…まさか、その会社がここだったとは。
「これはこれは…東堂家の御令嬢と、こんな形で再会することになるとは。やはり我々は御縁があると思いませんか?」
要人さんの父である社長が、妙な発言をしたことにより場の空気が少し凍りついた。
それもそのはず。怜弥さんは私の実家のことを知らない。ただ“都合がいい人間“だったという理由で婚約者役に選ばれただけの私が、、まさかこんな面倒な案件を抱えていたとは。
彼の方こそ、夢にも思わなかっただろう。
「……怜弥くん、彼女は本当に君の婚約者なのか?先日、我々との見合いを終えたばかりの彼女がこの短期間で君との婚約を決めたなんて、正直信じられないな」
まずいことになった。なにがって?
このままでは守谷社長が私の父に確認の連絡を入れるような気がしてならない。
こんな茶番劇が知られたら、二度と怜弥さんに会えないように家に閉じ込められるような気がする!!
「っあ…あの、実は私たち、、」
「─…本当に申し訳なかったと思っています」
正直に“婚約者ではない“と打ち明けようとした私の声に重ねるようにして、突然謝罪の言葉を口にした怜弥さん。
次の瞬間─…
グッと肩を引き寄せるようにして抱かれ、、
「実は彼女…沙羅とは以前から交際していて。少しすれ違いが生じて会うのを控えていたタイミングでお見合いの話が来てしまったようで。」
即興で作り上げた嘘のシナリオを、あたかも真実のようにして語る怜弥さん。
「彼女の性格上、すぐに断ることも出来ず─…断る前提で見合いに参加させてしまったことを、この場をお借りして深く謝罪いたします。」
再び謝罪の言葉を口にしたあと、腰を折り頭を下げた怜弥さんを見て…自分も同じように続いた。
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