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テーブルの下で割れているであろうグラスに、視線を向けることが出来ないのは、怖かったから。
今、目を離すと…彼が何をするか分からない、って…そんな気がして。怖くて目を逸らすことが出来なかった。
「え…?なんか警戒されてる?俺が来ることを望んだのは沙羅ちゃん、君自身だろ?」
「……怜弥さんが、そう言ったんですか?」
「あぁ、聞いたよ…君たちの結婚が契約婚だって事も…君が長い間、俺を慕ってくれてたって話もね」
律儀というか、なんというか。
怜弥さんは本当に私が海江田さんのことを慕っていると信じているのだろう。
──…困ったことになった。
「聞いた時は驚いたけど…怜の言う通り、セキュリティ万全のこの家で密会する分には…外部に漏れる心配は無さそうだし─…お互い、気兼ねなく楽しめるでしょ?」
「……あのっ、わたし、、」
「あー…そういうの、いいから。今更恥ずかしいフリとかされても何とも思わない。お互いの欲を満たせたら…それで良くない?」
勘違い、されている。
完全に私が海江田氏を好きだという流れで、話しが進んでいる。違うのにっ…私が好きなのは怜弥さんで、海江田さんのことなんて本当に全く興味が無いのに─…
「とりあえず…キスから、始める?」
静かに席を立った彼を見て、自分も慌てて立ち上がった。ゆっくりとこちらに歩みを寄せてくる彼から逃れるように…私は一歩ずつ後ろへ後退する。
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