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「……心は痛まないのですか?」
頼みごとに対する返事をする気にはなれず、憐れむような目を向けて美蘭さんに問いかける。
「このドレスは…美蘭さんが代表を務めているサロンのものですよね?ご自分の手で汚されたことに対して、心が痛むことはないのですか?」
「新しいものを用意するから問題ないの」
「そんなっ…」
「そんなことより、答えは出たの?考えるまでもないと思うけれど…一応聞かせてもらえる?」
”そんなこと”なんて言葉で片付けられてしまったが、逆に有難く思った。これで心置きなく、この人に仕返しをすることが出来るから。
「……怜弥さんを裏切るような行為は、私には出来ません。なので新しいドレスを用意していただく必要はないです」
「本気で言ってるの?その姿でパーティに出るつもり?」
「グループのトップに立つ人が誰になるのか、私には想像も出来ませんが…ご自分の事業を粗末に扱う人間を妻に持つお義兄さんが選ばれてしまうと、きっとグループは朽ちていくでしょうね」
「……いま、なんて言ったの?侮辱するのもいい加減にっ」
「要らないなら、この仕事─…私にくださいよ」
「なにをっ…」
「少なくとも、あなたより…上手く経営出来る自信しかないです」
─…私を妻に選んだことを後悔させない。
推しと結ばれて幸せだ、って。ただ浮かれて過ごすだけじゃフェアじゃない!それだと怜弥さんが損してる!
彼が欲しいと思うものを手にする為に手助けをするのは妻のつとめだ。
その為にまずこの兄嫁の事業を─…奪い取ってやろうではないか。
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