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「お前はバカなのか?それとも計算?」
「…いひゃい、れふ。」
(…痛い、です。)
「俺はもうお前の上司じゃない。この結婚は間違いだったと思いたくは無い。頼むから…失望させないでくれ。」
遂に“君“から“お前“呼びに変わってしまった。どうやら私は地雷を踏みまくっているらしい。いい加減大人しく黙ろう。
私の頬から手を離した彼は、うんざりしたような表情を浮かべ…すぐ後ろに停まっているセダンに乗るよう目配せしてくる。
「あの…今日から私は怜弥さんの妻ですよね?」
「あぁ、もう既にお前の世帯主は俺だ。」
「なら多少のワガママは聞いてもらえます?」
「……金に困っていないお前が、一体俺に何を求める?契約違反にならない案件なら聞いてやってもいい」
「…じゃあ、遠慮なく言わせていただきますね」
「時間が惜しい─…さっさと要件を伝えろ」
私が彼─…四條 怜弥さんとの契約結婚に踏み切った理由はとても単純で…かなり複雑。
「愛情は必要ないですが…たまーにでいいので、キスくらいはして欲しいです」
「─…断る」
ガーン…っと悲観している私を横目に、愛車に乗り込んで颯爽と立ち去った彼を見送ってから…指示された通りセダンに乗り自宅へと向かう。
ナイモノネダリな私たちの偽りの夫婦生活が、
いま静かに─…始まりを告げた。
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