ナイモノネダーリン/冷酷な旦那様と愛されたい私

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本物の結婚式でもないし、キスをする演出があるなんて聞いていない。きっとこれは…怜弥さんのアドリブ…いや、気まぐれ? どちらにしても……不意打ちのキスは心臓に悪いです。頭の中が真っ白でもう何も言葉が浮かんでこない。 っと、こうなることは予想していたみたいで。 「故きを温ね新しきを知る、という言葉があるように。個人の主張が尊重されるようになった今の時代…古い考えを持った人間ほど生き辛い世の中なのかもしれませんね」 私に代わって…話しの主導権を握り、言葉巧みに民衆に語りかける。 「真っ向から否定したり、過去に囚われ強い偏見を持つよりも…個人の自由を尊重することの方が今の時代を生き抜くのに必要なスキルだと、私は考えています」 ……さすが怜弥さん。 軌道修正の仕方が神がかっている。 「なので私は…妻のこの装いを恥だとは思いません。むしろ、東堂家と四條家の仲をより深めるものになったと思います。…沙羅、お祖母様との大切な思い出を俺に共有してくれてありがとう」 即興で考えたにしては、やけにリアルで…まるで心からそう思っているとでも言うように、優しい眼差しを私に向けてくれる彼に、うっかり見惚れてしまう。 「それでもまだご不満がある方は、どうぞお引き取りください。」 怜弥さんの静かな怒りは、会場にいる皆に伝わったみたいで。誰一人として…席を立つ者はいなかった。
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