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「それに…仕事だって。わざわざ他のところで働かなくても、パパの事業を一緒にっ…」
「コネ入社だと思われたくない…ってこれも、前から言ってるよね?」
「…見合いを断るなら、せめて彼氏の一人や二人紹介してくれてもっ」
「いや…二人いたらダメでしょ。とにかく…お見合いはしないからっ!私のことは本当に心配しないで」
実家を出て一人暮らしをしているものの…心配性で過保護な父はかなりマメに連絡をよこしてくる。
蔑ろにすれば家まで押しかけてくるので…無下に扱うことも出来ず、毎回相手をしているのだが。
(…そろそろお見合いコールから解放されたい)
とは思うが…父のことを強く拒めないのには、いくつか理由がある。
名家の長男として生まれた父は、跡取りとして厳しく育てられたみたいだが…その肩書きや地位に全く興味がなかったのか、弟である次男の雅文さんにあっさりと跡取りの座を譲った。
そんな父も事業経営には興味があったのか…大学生の時に友人とインターネット関連の広告会社を設立し、運が良かったのか経営の才能があったのか…7年程で上場。
その後事業を拡大させ、今は国内大手のネット広告会社として名を馳せている。
そのため─……
「心配なんだ…パパが目立つ人間であるばっかりに、沙羅が変な男に騙されて傷つけられないか」
実家が名家であることや、自身も一企業の会長であることから私の結婚相手になる人物に対して警戒心がとても強かった。
「…パパが選んだ人だっていい人とは限らない」
「でもその場合は人選ミスだったとパパを責めることが出来る。沙羅が自分で選んだ男じゃないから…無駄に傷つく必要はなくなる、ってそう思わないか?」
お見合いをやたらと勧めてくるのは、父が私のことを思ってくれているからだと分かっているからこそ…強く拒めずにいた。
だからといって…父の為に好きでもない男性と結婚をしようと思うほど、私は父親思いの娘ではない。
今現在、彼氏がいるわけではないし…その候補になるような人だって存在しない。
─……それでも、、
「思うことは、自由だもんね?」
長年、片思いしている“推し“が一人存在する。
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