雨は止むもの上がるもの

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 その国では、傘は晴れた日にたたんで杖のように持ち歩くものであって、雨の日にさすものではありませんでした。  珍しい図柄の布地や意匠を凝らした持ち手の美しさを、屋内で友人に自慢するものであって、雨に濡らしたりするものではありませんでした。  だから、その国には、雨が降っても傘をさして出歩く人は誰一人おりませんでした。  傘をさす習慣がないくせに、身分のある人々は、ずぶ濡れの姿を人目にさらすのは恥ずかしいことだと考えていました。  彼らは、雨の日は外出をあきらめるか、フードのついた外套をまとって出かけるか、馬車や屋根付きの車で行くかのいずれかを選ぶことになりました。  少しでも濡れたくないと思う人々は、たいていの場合、外出をあきらめました。  雨は、永遠に降り続けるわけではありません。  いつかは止みます。  濡れたくないなら、雨が止んでから出かければいいだけのことです。    しかし、そうはいかないこともありました――。
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