未知への冒険

1/1
前へ
/5ページ
次へ

未知への冒険

「それでは吉田家御一行4名様、これよりマジカル・ミステリーツアーに出発いたします」  ハイキングスタイルに身を包んだ4人家族が俺を見つめて、目を輝かせている。それはそうだろう。ミステリー列車など比較にならない。これこそ本当の未知への冒険だ。  何しろ「黒い穴」を抜けて旅立つのだから。  穴の先はY県の山奥につながっていた。  今では俺がその土地の所有者だ。利用価値のない山林は二束三文で購入できた。それでも数百万の資金が必要だったが、1年で貯めることができた。  異世界探検の準備中、俺は技術と知識を身につけ、様々な年代、職業の人たちと行動を共にした。  気づいたら、いつのまにかコミュ障を克服していたのだ。しかもキャリアアップも果たしていた。  目的の大きさ、モチベーションという奴が苦手意識を吹き飛ばしたらしい。  俺は観光会社を立ち上げた。売り物はこの「マジカル・ミステリーツアー」だ。  世界中どこを探しても、ワームホールを通って旅ができるツアーなどほかに存在しない。  唯一無二の体験として、うちのツアーは大ヒットを記録した。  それでも心配性は治らない。今日も俺はフル装備に身を固め、キャンプ道具一式と、散弾銃のバッグを背負って穴に入る。  行き先がいつ異世界に変わっても、そこで生きていけるように。  なに、現実世界でも生きられるようになったんだ。異世界に行ってもきっと何とかなるはずさ――。 (完)
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加