お届けのファンファーレ

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「センパーイ、お届けにあがりましたー」 僕はまた 先輩の前に差し出された。 吹奏楽部の部長室のドアが開かれると 僕は押し込まれる。 目に飛び込む先輩が計算している。 悩んだ眉間が潤しい。 「きゃー・・」 一言発すると いたたまれない僕は逃げる。 懲りずにやつらは僕を届ける。 今日も先輩は部長室に1人・・ 備品の整理をしている。 滑らかに動く長い指先に釘付けになる。 視線に気付いたのか気づかないのか ふっと指先を跳ね上げ 額で揺れる前髪を流す。 イタズラに微笑むと 「お、また来たか。ハンコ押すか?」 「イヤーーーっ!」 僕は逃げる。 僕は生粋の先輩のファンだ。 美しくてかっこよくて・・僕には高嶺の花で・・ そんな美しい先輩率いる吹奏楽部の広報係が僕で 定期的な投稿は欠かせない。 密やかに人気になっているのは部活の活動内容より 僕の投稿する先輩の幸せそうな笑顔や 真っ直ぐな眼差し・・ 何気なくも美しいワンショットだったりする。 その虜になった仲間達が こうして毎日のように僕を部長室に届けるのだ。 両脇を抱えられ数人がかりで運ばれる。 「あーー! 見てらんないっ!!」 「お前の投稿はオタクなんだよ!」 「先輩愛がダダ漏れですわ」 仲間達に捕まると今日も先輩の元へ。 「言えって! 大丈夫だから!」 「何が大丈夫なんだよっ!」 抗う僕の両脇は抱えられ 先輩の元へお届けされる。 「どうした? ん?」 くわっ! なんて、優しくて艶やかな笑顔! 僕のお気に入りの笑顔に・・ ・・この気持ち、勝手に声に出た。 「先輩!好きですっ!!」 思いがけず声がでかい。 何事かと部長室を覗く部員が わらわらと集まってくる。 驚いている先輩の顔があまりにも可愛くて 思わず僕は、もう一度言っていた。 「先輩! 先輩が好きですっ!!」 夏のねっとりとした空気に波紋ができる。 その波紋の中心に先輩はいる。 小首をかしげてなんて可愛らしい。 固唾をのむ部員の1人が 波紋を破るべく何かを蹴った。 ガツッ その音で我に返った。 いつものように逃げようと踵を返す。 息を吸った瞬間 「私もだ」 そこにいる全ての部員の産毛が逆だった。 先輩の言葉を確認すべく ゆっくりと振り向く・・・ と なんて優しい・・ なんて・・ 愛おしそうに僕を・・見てるんだ 僕は失神寸前で先輩の悩殺表情に魅了される。 「待ってたぞ」 そういうと静かに立ち上がった。 と、同時に割れんばかりの大歓声が湧き上がる。 誰が撮ったら先輩をこんなに素敵に写すのか 投稿者もまた人気があったことを僕が知る由もなく・・ 歓声と共にバタバタと靴音を鳴らして 消えた部員と引き換えに 隣の音楽室からファンファーレが響き渡る。 華やかなマーチに誘われて 下校時刻の生徒たちがゾロゾロと集まってくる。 誰が撮ったのか先輩と僕が並んで 部員の祝福の演奏に包まれている写真が 僕たち吹奏楽部広報のアイコンになっていたのは 翌日の話である。
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