あてつけ

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俺は頭からシャワーを浴びた。 不意に鏡を見ると、今日の相手がつけたキスマークが鎖骨に付いていた。 俺はその痕を、爪で引っ掻いた。 馬鹿なことをしているのは分かっている。 こんなことしても、真斗は俺を見てくれないことも。 だけど、まともな恋愛をしたことがない俺は、どうしたらいいのか分からない。 「晶、タオルと着替え置いとくぞ。」 風呂場の外から真斗が俺に声を掛けた。 「ありがとう。」 「早く出てこい、先に寝るからな。」 そう言いつつ、真斗はリビングのソファーで待っててくれる。 口は悪いけど、優しいひと。 ほんとずるい。 「出るか。」 俺が風呂から出ると、脱衣所にある洗濯機が回っていた。 「真斗、洗濯してるの?こんな夜中に。」 「晶の服が臭かったから。」 「そんなに酒臭かったか?」 「それもだけど…」 珍しく、真斗が言葉を濁した。 「どうせ、明日も俺ん家に居るんだろ?」 「うん、そのつもり。」 「明日には乾くから。」 「真斗って暇なのな。毎週、俺が来てるのに予定ないじゃん。」 「それをいうなら晶もな。」 俺は真斗と居るために、毎週日曜日は予定を入れないだけなのだけど。 「それより、寝るぞ。もう眠気が限界。」 「先ベッドで寝てて?すぐ行くから。」 「リビングの電気とエアコン消してきてな。」 「おっけ。」 まるで、恋人同士の会話だ。 俺は寝室へ向かう真斗の背中を見つめていた。
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