あてつけ

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外はすっかり暗くなっていた。 そろそろ帰らなければ。 「真斗、俺帰るね。」 「送ってく。」 「いいよ、ひとりで帰れる。」 「さっきから俺の事避けてないか?」 「気のせいでしょ?」 さすが、鋭い。 真斗に触れられてから、彼の顔がまともに見られない。 「黙って送られろ。外も暗いし。」 「……分かった。」 俺の意思なんてそんなもんだ。 結局、真斗と少しでも長く居られる方を選んでしまう。 本当は1分1秒だって真斗と離れたくない。 トウルルルルルル…… その時、俺のスマートフォンの着信音が鳴った。 相手は、後藤さん。 職場の先輩だ。 最近、飲みに行って以来、口説かれている。 だが、職場の人とは寝ない主義の俺は、それとなく彼からのアプローチをかわしていた。 「電話、出なくていいのか?」 「うん。」 「そっか。」 真斗はそれ以上、詮索してこなかった。 もっと俺に関心を持って欲しい。 「実は、口説かれてるんだ。」 「へぇ。」 「どう思う?」 「俺に聞くなよ。」 「友達なら相談に乗ってくれてもいいじゃん。」 「友達か。」 そういう真斗の横顔が、一瞬、寂しそうに見えた。 俺は、頭より先に身体が動いていた。 「晶?」 「今だけ嫌がらないで。」 俺は真斗の背中に抱きついた。 「別に嫌じゃないよ。」 「うん。」 今はそれが聞ければ十分だ。 こんなろくでもない俺の傍に居てくれてありがとう。 好きだよ、真斗。 伝えられる日は来るのだろうか?
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