香水

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香水

真斗と会えない夜は退屈だ。 仕事と家の往復を繰り返す日々。 俺は真斗が思っている程、遊んでいない。 真斗への想いが強くなればなるほど、好きでも無い相手と寝ても満たされなくなった。 むしろ、虚しさが込み上げる。 明日は、真斗の誕生日だ。 きっと、本人はすっかり忘れていると思うが。 真斗の喜ぶことは分かっているつもりだ。 少し背伸びをして、高級フレンチレストランを予約した。 真斗の生まれ年のワインも手配済みだ。 そして、もうひとつのプレゼントの為に、俺は後藤の誘いに乗って、今、バーに居る。 「乾杯。」 「素敵なお店ですね。」 「気に入ってくれた?」 「はい、とっても。」 愛想笑いで、頬がつりそうだ。 早く本題を済ませて、帰りたい。 今夜は土曜日。 真斗に会いに行く日なんだから。 「はい、これ。」 「ありがとうございます!」 「いいよ。晶くんの頼みなら喜んで。」 俺は、後藤からライブのチケットを2枚受け取った。 真斗の驚く顔が目に浮かぶようだ。 「晶くん、この後なんだけど...」 「後藤さん、今日は本当にありがとうございました。また会社で。」 俺は半ば強引に、テーブルを立った。 だが、後藤に手を握られてしまった。 「それはないでしょ。」 「俺は、後藤さんとやる気はありません。後藤さんは尊敬できる職場の先輩です。だから、それ以上には思えないんです。すみません。」 「きついわ……」 俺は振り返らず、前だけを見た。 すると、後藤が俺を後ろから抱き締めた。 「これ以上、何もしない。」 「はい。」 数秒後、後藤はゆっくり俺から離れた。 「また職場でな。」 俺は振り返らず、歩き出した。
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