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シャララン、とワンフレーズ。
メッセージの受信を知らせるメロディを奏でるも、スマートフォンの持ち主は夢の中。
シャラララン、もうひと鳴き終えた後。「ここにいるよ」と暗闇の中、さらに四角い機器は微弱な光をチカチカと放つ。
重いまぶたをまずは左から。わずかな時差で、右のまぶた。両裸眼0.7の瞳を開ききると、虹田碧は枕替わりのクッションから渋々頭を持ち上げた。
ぼんやりと映るのは、シンプルな木枠の姿見ミラー。その足元には、うさぎの姿をしたファンシーなぬいぐるみ。捨てきれずに放り置かれているピンク色のそれは、独特なセンスの持ち主だった元彼からの贈り物。
寝落ちした瞬間の記憶は抜け落ちているけれど、ここが住み慣れた自室であることには違いない。チグハグなインテリアたちに囲まれている事実から、朦朧とした頭で碧は理解できた。
「何時?」
ゆっくりと腕を伸ばし、存在をアピールし尽くしたスマートフォンを引き寄せる。現れたデジタル表示の時刻は、ピッタリ午前0時を差していた。
「おめでとう、私」
二十八歳を迎えたけれど、何も変わらない。誰からも祝われない誕生日を迎えたことを確認した刹那、ピコンと吹き出しが現れた。
件名:おめでとうございます!
「え、誰?」
緩慢な動きだった指先が、小動物のごとく画面上を速やかにすべる。続くメッセージは、予想もしない文言だった。
本文:女神として正式に認定されました!
━━女神として認定?
「スパムくさいなぁ。しかも、長っ」
スクロールすれども、長文の結末は見えず。
「おっと、迷惑メールは触れないことが鉄則……」
読み切ることなくゴミ箱ファイルへと削除しかけた寸前。おぼろげながらも、昨夜までの記憶が碧の脳裏によみがえった。
「女神……ヴィーナス?」
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