0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
一方的に迫られた上に、一方的に失望されるという理不尽な仕打ちを受けたのだ。金輪際、赤塚とは二度と関わることはないであろうと誓った矢先。
『泥棒猫!』
「は?」
見知らぬアカウントから、心当たりのない中傷メッセージが唐突に届いた。
『私の婚約者と寝ただろ、この泥棒猫!!』
「はあ?」
昨夜から何度「Ha」と発音しただろうか。『泥棒!泥棒!』と百本ノックのごとく繰り出される連打メッセージを削除しようと触れたはずが、合間に添付されていた動画の再生ボタンをタップしてしまった。
『ごめんなさい、もうしません。お願いです、許してください!』
見覚えのあるシワだらけのシャツ。甲高い泣き声を上げながら、路面にひれ伏すのは━━。
「赤塚!?」
ひたすら土下座で許しを乞うている男は、気の迷いで同衾した赤塚で間違いない。
『悪い女に唆されたんだよね、タッくん』
気味悪いほどの猫なで声で、赤塚の『婚約者』を名乗る女は淡々と撮影を進めている。促された赤塚は、昨夜同様カメラへ向かって一方的に暴言を吐いた。
『そうだ、お前が誘ってきたからだ。このビッチ!』
「Haa!?」
『俺は何とも思っていないからな、お前のこと。俺は……』
言い足りなそうな赤塚の顔面アップを残し、動画の再生はプツンと切れた。
「意味わからん!」
通信機器は悪くない。それでも当たらずにはいられない。画面が割れない程度に、碧はスマートフォンを投げ置いた。肩で激しく息をした後、パンドラの箱ならぬ封印していた記憶の扉がこじ開けられる。
「好きじゃねえよ、誰のことも!」
取り憑かれたように口から飛び出したのは、二年前に別れた元彼から浴びせられたセリフだった。
最初のコメントを投稿しよう!