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二年前の今日、二十六歳の誕生日を当時の彼と一緒に過ごす予定だった。ところが、約束の当日一時間前になって、ドタキャンされた。
「私のこと、好きじゃないの?」
責め口調で問い詰めてしまった結果、食らった返事が『好きじゃねえよ、誰のことも!』だった。
さらには、三ヶ月前から職場の同僚だという年上女性と二股をかけられていた事実も発覚した。碧とは、学生時代から六年間も付き合っていたというのに。
「あの時と一緒。選ばれなかったんだ、私は」
鏡に映る自分は、可もなく不可もない平凡な二十八歳の女だと思う。
「それなのに……」
誰もが当たり前に得られる幸せが、いつも目前で掌からこぼれ落ちる。
「選ばれたいな、私だけを好きでいてくれる人に」
ポツリと漏らした独り言に呼応するように、放り置かれたスマートフォンから優しい声色が流れ出てきた。
『選ばれるのではありません。選ぶのです、あなたが』
「ひっ」
「は」の次は「ひ」。悲鳴のような感嘆符が、この数分だけで碧の唇から何度漏れただろう。
『選ぶのです、あなたが』
オフラインになっていたはずの雑談配信が、スマホのバックグラウンドで再び流れ始めたようだ。開いた画面に現れたカテゴリタイトルは、アクセスした覚えのない【占い雑談】。
「占い……興味ないな、それどころじゃないし」
配信を止めようと、スワイプで画面を消去しかけたタイミングだった。
━━ジャジャーン!
オーケストラの盛大なジングルが鳴り響き、碧の指は【登録】と書かれたボタンの上で跳ねていた。
「ふ、へっ?」
あれよという間に、アプリのウィンドウが何重にも開く。ポップアップが打ち止めとなったところで、画面から浮上したのは……。
「ようこそ、女神の部屋へ!」
金髪ヘアに白い布をまとった出で立ちの、自由の女神を彷彿させる━━リカちゃん人形サイズの麗人だった。
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