episode 01 女神の浮上

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『わこつ』 『わこつー』 『わこつであります!』  立体的に浮かび上がる小さな麗人の足元では、リスナーのコメントと思しき吹き出しが滝のごとく流れ出す。 『待ってたよ~ヴィーナス様!』 『今日も麗しいヴィーナス様!』 『最高です、ヴィーナス様!!』 「何、なに、ナニコレ、どういう仕組み!?」  スマートフォンの上で舞い踊る【女神(ヴィーナス)】と呼ばれる麗人をつかもうとするも、偶像は碧の掌をすり抜け。再び画面の中へと収まった。 「アタシが麗しいのは百も承知よ。アナタたちこそ、ご機嫌麗しいかしら?」  満足そうに微笑むヴィーナスの頭上に、コインや札束を模したアイテムが降り注ぐ。 『ヴィーナス様のお陰で麗しいです!』 『今日もヴィーナス様にあやかりに参りました!』 『降臨ありがとうございます!』  300、500、1000、10000。  投げられた各々のアイテムには、細かく数字が描かれている。主であるヴィーナスに対する課金額なのだと、配信界隈に疎い碧とて理解できた。 「皆、お利口ね。さすが、アタシの教え子たち」  ヴィーナスを讃える信者たちの9割……否、ほぼ全員が女性であるらしい。猛スピードで流れるコメントに目が慣れてきた碧は、好奇心から一言コメントを書き込んだ。 『こんにちは、ヴィーナス様』  秒で画面から消える速さだ、スルーされるに違いない。そんな目論見を反芻する間もなく、弾んだ声が響く。 「あら、初見さんね。こんにちは、いらっしゃい【ミドリ】さん!」 ━━げ、読まれた!  どんなジャンルの配信でも、普段は潜りスタイルを決めていた。本名のまま使っていたアカウント名を不意に読み上げられ、碧の心臓は早鐘のごとく打ち始める。  悪目立ちすることへの心配は、杞憂だった。続いて流れてきた『初見です』『はじめまして!』『初見♡』等々同類のコメントにもヴィーナスは丁寧に対応し、碧の存在などものの数秒で埋もれてしまった。
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