３人の黒川

　　　　　　主婦　黒川涼子

　黒川涼子は夫と高校生の娘がいる専業主婦である。周囲からは幸せそうな家族だと言われる。確かに涼子自身も、絵に描いたような幸せな家族だと、家族の写真を見て思う。

　しかし、涼子には一つ問題がある。それは、彼女が不倫をしていることだ。しかも、あろうことか不倫相手は娘の担任教師なのだ。

　涼子と娘の担任教師である野口は、涼子が夫と出会う前から知り合いで、実は幼なじみである。二人とも幼い頃から惹かれ合っていたが、どちらから告白することもなく、大学生になるとそれぞれが実家を出たため疎遠になった。

　再会したのは、娘の高校入学式だ。まさか野口が娘の担任だとは夢にも思わなかったので涼子はとても驚いた。

　最初こそ担任と親、という関係だったが進路などを相談しているうちに二人は再度惹かれ合い、今度は深い関係になった。そして、野口は涼子が初恋の相手だと告白し、いずれは結婚したいと語るようになった。涼子も夫との中は冷め切っていたので、離婚を考え野口と新しく幸せな生活を送りたいと思うようになった。

　しかし、涼子は主婦だ。気がかりなのは、やはり娘である。娘は父親と離れることを許してくれるとは思えない。そこまで父親と仲が良さそうには見えないが、やはり本当の父親と離れるのは辛いだろう。もちろん、これからも娘は涼子が育てるつもりだ。しかし、娘は自分のところに着いてきてくれるだろうか。そもそも担任と付き合っていると知ったら娘は何と言うか。涼子は悩み続けていた。心の中の黒い感情が抑えきれなくなっているのを感じていた。