雨宿り

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「あ、あの、タオル、いりますか?」 「え? いえ、大丈夫ですよ。ここから家近いですし」 「でも……」 「あなたも濡れてしまっているんですから、ご自分に使ってください」 差し出したタオルの行き場がなくなり、仕方なく自分の腕を拭く。 腕の水滴が消えるのに比例して、タオルは徐々に冷たく重たくなった。 「傘は持っていないんですか?」 タオルで首を拭いていると、不意に青年が訊ねてきた。 「朝は会社に持っていったんですけど……。そのまま忘れてきてしまいました」 「出るときに降っていないと、忘れちゃいますよね」 「はい」 「俺も、大学に忘れてきてしまいました。今頃教室で淋しがっているかもしれません。あ、もしかしたら誰かが事務局に届けてくれているかもしれませんけど」 若そうだとは思っていたが、大学生だったなんて。 おそらくこの人は私と一回りくらいは違うんだろうな。 「面白い発想ですね」 「え?」 「傘が淋しがっている、って」 傘は無機物で、ましてや感情なんてあるわけない。 それなのに、まるで傘が生きているみたいに言う。 「誰もいない場所にぽつんと忘れられたモノって、寂しそうに見えません?」 そう言われてもピンとこない。 物は物。忘れられた者はただの忘れ物でしかない。それが寂しそうに見えたことはないな。
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