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答えられずに視線を泳がせていると、青年はクスクスと笑った。
「俺にはそう見えるってだけですよ。傘に悪いことしたなぁ、明日お迎えに行ってあげないとなぁ、って。そう思うだけです」
「えっと……優しい、ですね」
言葉が見つからず、ふわっとした言葉を首をかしげながら曖昧な声音で返す。
「ふっ」
笑われてしまった。
話の流れにあっていない返答だったかもしれない。
「自分と違う感性でも否定しないあなたの方が優しいですよ」
彼はまっすぐに私の目を見て笑っていた。
馬鹿にするような笑みではなく、すべてを受け入れるようなそんな穏やかな微笑み。
私なんかより随分と大人びて見えた。
「あ、雨……」
彼の視線に耐え兼ねて外した先で、雨足が弱まってくるのが見えた。
「もう少し待てば止みそうですね。いつまた強まるかわかりませんし、帰るなら今のうちかもしれませんが……。どうされますか?」
「あ、私はもう少し待とうと思います」
「そうですか……」
私が答えると、青年はどこか残念そうな顔をした。
何か言いたそうにしている青年の顔を覗き込む。
「あの、大丈夫ですか?」
「あぁ、はい。すみません。……あの、よければ、なんですが……。もし嫌でなければ、また俺と会ってくれませんか?」
……これは、いったい……?
私はぽかんとして青年を見上げる。
プッと噴き出すように笑われるほどに間抜け面をしていたらしい。
ハッと我に返った私は、だんだん熱くなってくる顔を隠すように俯いた。
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