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「おかえりなさい」
そんな言葉を掛けつつ、彼の湯呑みにあったかいお茶を注ぐ。デイサービスから帰って来た夫の表情は、今日も柔らかだった。こんなことだったらもっと早めに相談すればよかったと少し後悔するくらいだ。
デイサービスに行き始めは渋っていたものの、そこの施設のボランティアで空野さんがいらっしゃったのがかなり大きかった。あとで職員さんから聞いたのだが、夫を見かけるといつも声を掛けてくださっていたそうだ。夫は空野さんのことをすっかり忘れてしまっているようだが、「励まされたから頑張ろうと思う」と言って、根気よく通い続けている。今では週三回程度の利用。本人にとってもいい刺激になっているようで、前より表情が豊かになったような気がする。本当に、空野さんには感謝してもしきれない。
「よかった」
しばらくして、夫がそんなことを呟く。
(何がよかったんだろう?)
そう思いつつも、また見えない小人と会話している可能性も否めなかった。だから私は、聞こえないふりをして夕飯の準備に取り掛かろうとした。
「アキ」
不意に呼ばれて手が止まる。驚いて振り返ると、夫が優しく微笑んでいる。名前を呼んでもらえたのは、実に数年ぶりのことだった。
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