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「奏吾!!何でそんな事を奏馬に言うの!?」
会社に着くや否や葵は奏吾の所に行く。
「何の話だ?」
「涼太の話!!」
顔を真っ赤にして怒る葵を見て、奏吾は薄笑いを浮かべた。
「そう怒るな。俺はただ奏馬に真実を伝えたまでだ」
「あれのどこが真実よ!!」
葵は奏馬と距離を取ろうとした。
だが、奏馬とは別れていなく、今でも葵の恋人は奏馬であり、涼太ではない。
そんな葵の考えている事が分かったかの様に奏吾は一笑した。
「真実というのはな、人々が信じ込んだ嘘の事だ」
「っ───」
編集長がそんな事を言って良いものかと葵は怒りたくなった。
だが、奏吾の言う通りかもしれない。
葵は奏馬の妹で、奏馬は春菜と未来を紡ぐ。
それが今の奏馬にとっての真実だ。
「話はもう良いだろう。俺は忙しい。金の事は何とかなっても、まだ誰かさんの尻拭いをしなければならないんだ」
奏吾に部屋から追い出されて、葵は渋々と自分の職場に戻った。
「如月さーん。如月葵さーん」
自分の席に着くと樹がそう呼んでくる。
どっと笑いが起きた。
相手にしていたら精神力が持たないと、葵は仕事に逃げる事を選んだ。
奏馬は何故笑いが起きたのか理解出来ていない様だ。
「葵?呼ばれているぞ?」
葵はぎゅっと唇を噛む。
奏馬に伝えたかった。
何度も伝えようと思った。
私の名前は如月葵なんかじゃない。
本名は葵優。
苗字が葵で名前は優。
貴方の恋人で妹なんかじゃない、と。
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