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病院に運ばれた奏馬は一命を取り留めたものの、頭の打ちどころが悪く、ドラマなどでありきたりの記憶喪失を引き起こした。
目覚めた奏馬は不思議そうに葵を見つめる。
「あの、どちら様でしょうか?」
葵はどう答えれば良いのか悩んだ。
「奏馬、こいつは俺達の血の繋がった妹、葵だ」
葵の代わりに答えたのは奏馬の兄、奏吾。
奏馬が病院に運ばれたと知って直ぐに駆けつけた。
そして、目覚めた奏馬が思い出せる唯一の人であった。
「妹……」
奏馬は軽く目を見開く。
が、直ぐに申し訳無さそうな微笑みを浮かべた。
「妹か……。ごめんな。記憶にないんだ」
葵は引き攣った笑みを見せる。
「ううん、気にしてない。ゆっくり思い出していけば良いから。兄さん」
暫く三人は病室で会話を交わしていたが、奏馬にはまだ休息が必要との事で二人は病室を出る。
「葵」
病室を出るや否や、奏吾は怒りを帯びた口調で葵を呼び止めた。
「奏馬が交通事故に遭った原因はお前だろう。お前を追いかけて交通事故に遭ったと聞いた」
葵は唇を噛んで、頷く。
「奏馬には既にお前を紹介してしまったから近付くなとは言わない。だが、奏馬の側にいるからにはお前の苗字が如月だという事を忘れるなよ」
たった今出た病室のネームプレートには如月奏馬様と書かれていた。
「分かってるよ」
「だと良いんだがな」
奏吾は鼻を鳴らして、ネームプレートをじっと見つめる葵を後にした。
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