スカビオサ

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 暫くして、退院祝いに社内の同僚達は奏馬を呼んでパーティーを開く計画を立てた。  葵も奏馬と同じ職場にいた為、そのパーティーに招かれる。  近頃、葵と奏馬のいる編集部では葵が奏馬を交通事故に遭わせたなどと噂される様になった。  大方、編集長を務めている奏吾が流した物だろうと葵は予測する。  それに加えて、葵は元より編集部で良い人間関係を築いていなかった為、噂は悪い方に広がる一方だ。  葵が奏馬を轢いたと言いふらす人もいた。  パーティー当日、葵と奏馬は一緒に会場である同僚の家につく。  直前となって物怖じした葵を(なだ)めた為、二人の到着は少々遅れる。  既にパーティーは始まっており、遅れた二人はかなりの注目を浴びた。  会場は水を打った様にシーンと静まる。  葵と奏馬が一緒に来るとは誰も思っていなかったのだろう。 「そうまー、お前らどういう関係だ?」  能天気な声がその空気を破る。  パッと葵は声のする方を見た。  聞いたのは奏馬の同僚兼友人、(いつき)。  奏馬の入院中も何度か見舞いに来た為、奏馬も樹の事を認知していた。  そして樹は葵と奏馬の関係を知る男だ。  葵の顔から血色が消える。  樹はわざと聞いているのだ。 「ん?記憶を失う前の俺は言っていないのか?」  やめて、と葵は奏馬の言葉を止めようとしたが、同じ場にいる奏吾に睨まれて口を噤む。 「葵は俺の妹だ」 「へぇ〜。妹か」  樹は、葵にしか分からない意味深な笑みを浮かべた。  同僚の中で二人の関係を知る人達はクスクス笑う。  奏馬はそれに気付かずに葵の事をペラペラ話し始めた。  葵は真っ青になって立ち竦む。 「ざまあねえな、葵」  樹はにやりと笑って、奏馬に気付かれない様にこそっと葵にだけ聞こえる様に言った。
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