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蔑んだ視線。
嘲笑う人々の声。
周りの全ての人が葵に対して悪意を向けていた。
葵は直ぐにでも外に飛び出したかった。
「葵、大丈夫か?」
真っ青になった葵に気付いたのか、奏馬は心配そうに尋ねる。
葵は辛うじて微笑んだ。
「人の多い所はあんまり好きじゃないの。ちょっと外の空気を吸ってくる」
そう言って葵は席を立った。
バルコニーに立って、葵は心地よい夜風にあたる。
ここなら何も考えずに済むから気が楽だと思った矢先に奏吾がズカズカとやって来た。
「奏馬には何も言ってないだろうな?」
荒い口調に葵は顔を顰める。
そして皮肉な笑みを顔に浮かべ、挑発する様な口調で奏吾に聞く。
「言うって何を?お金の事?妹と付き合ってた事?それとも……」
「とぼけるな。全部だ」
今にも殴りかかりそうな勢いを見て、余程私の事が嫌いなんだなと葵は心の中で思う。
「大丈夫。何も言ってないよ、兄さん」
奏吾は小さく舌打ちする。
「奏馬のいる所ならともかく、いない所で俺を兄と呼ぶな。反吐が出る」
私だって呼びたくて呼んでる訳じゃないと葵は心の中で付け加えた。
「金は、あの涼太という男が解決してくれた」
奏吾はタバコ取り出しながら言う。
「留学先で待ってる、と」
そう、と葵は呟く。
「奏馬なら心配は要らない。」
奏吾はふうとタバコの煙を吐き出す。
「奏馬は社長令嬢に見初められたんだ」
「え……?」
「今日、パーティーに来ている。さっきあの二人は楽しそうに会話していたぞ」
タバコを吸う合間に紡ぎ出された言葉は、煙の様な、もやっとした感情を葵の心にもたらした。
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