スカビオサ

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 奏馬の側にいかないと。  奪われる。  会場に戻ろうと走り出した葵の腕を奏吾が掴み、引き留める。 「ちょっと!!放して!!」  必死にもがく葵に奏吾は冷ややかな言葉を浴びせた。 「放してやっても良いが、馬鹿な事はするなよ?今のお前は奏馬の妹でしかないからな」  大粒の涙が葵の目から溢れる。  奏馬の妹でしかないなどの言葉、葵は絶対に聞きたくなかったのだ。 「あの女性はきれいで思いやりのある素敵な人だ。お前よりもあの女性の方が奏馬に相応しい」  まだ吸いはじめたばかりのタバコを奏吾は消す。 「少なくともお前と違って、あの女性は奏馬を傷付ける様な事はしないだろうからな」  嗚咽を漏らす葵を見て、奏吾は溜め息をつく。 「お前にもあの涼太という男がいるじゃないか。奏馬じゃなくともお前は幸せになれる」  そして静かに葵を放した。  涙で化粧は落ち、かなり取り乱した姿をしていた葵は会場には戻らず、外から会場の中の様子を窺った。  奏吾は嘘をついていなかった。  奏馬はきれいな女性と談笑しており、葵の事を気に留めた様子は少しも見られない。  同僚達も二人の様子を微笑ましく見守る。  私とは大違い。  涙を流しながら葵は呟く。  あの女性ほどきれいな容姿はないし、同僚達と良い関係も築けない。  何よりも、奏馬がいつもより生き生きとしているのが葵にとって一番耐えられなかった。  酷く惨めな気持ちになり、葵はバルコニーにいる奏吾に会費だけ渡して、逃げる様にして家に帰った。  その様子を見て、奏吾は新たにタバコを取り出して、火をつけた。
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