スカビオサ

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 部屋を出ると、美味しそうな匂いが漂ってくる。  あ、奏馬が朝ごはんを作ってる、と葵は瞬時に察した。  昔から奏馬は朝に弱い葵の代わりに朝食を作る。  ここ一ヶ月この匂いを嗅げていなかった為、葵はすごく懐かしいと感じた。 「兄さんおはよ……」  キッチンの方を覗くと葵は固まった。  キッチンには奏馬と、昨日のパーティーで奏馬と談笑していた女性が仲睦まじく料理を作っていたからだ。 「おはよう、葵ちゃん」  その女性はふわりと微笑んだ。  すごく、眩しい笑顔だった。 「えっと……」  状況を掴めずに葵がオロオロしていると女性は葵の近くまで来て、ぎゅっと葵の手を握った。 「初めまして。この度、奏馬さんとお付き合いさせて頂いております、五十嵐春菜(いがらしはるな)と言います。妹の葵ちゃん、ですよね?」  葵には衝撃な事実だった。  昨日初めて会った女性と奏馬は付き合い始めたのだ。  そんな事……。  葵は奏馬の方を見る。 「おいおい、春菜。いきなり手を握ったらびっくりするだろ?」  奏馬は苦笑いする。  もう春菜呼び。  葵は呆気に取られた。 「あ、ごめんね。びっくりしたよね?葵ちゃんが可愛かったからつい……」  春菜は恥ずかしそうに俯く。  葵はそんな春菜の褒め言葉に反応する余裕はなかった。 「二人は、本当に付き合ってるの?」  葵自身も驚くほどの冷ややかな口調でそう聞く。  妹として生きる。  そう誓ったばかりであるが、この光景を目の当たりにすると葵はもうそんな事を言ってられなかった。
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