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Prologue: モーニングコーヒー飲もうよ。三人で
今から4年ほど前――
「ごめんなさい、許してください……」
学生だった当時の恋人だった累くんは、一緒に眠っていると突然そんなうわ言を呟くことがあった。そのたびにわたしははたと目を覚まし、冷や汗をかきながらうなされる彼に声をかけた。
「累くん? 累くん、どうしたの?」
揺すって起こそうとしても、彼はその美しい顔を歪めながら苦しそうにうめき続けるばかりだったので、咄嗟にギュッと抱きしめて落ち着かせようと試みた。
「大丈夫……大丈夫だから」
しばらくそうしていると、やがて安心したように穏やかな寝息をたて始める。わたしもホッとして、そのまま彼の体温を感じながら再び眠りについた。
後日、何でもない時にそれとなく聞いてみると、彼は決まって可笑しそうにカラッと笑った。
「え、そんな寝言言ってた? あっ、この前一緒にたこ焼きを食べたじゃない。それで大きなタコに捕まる夢を見たんだよ。その時かな」
累くんとは、わたしが高校を卒業して田舎から出てきた直後、よくある合コンで出会った。
まるで乙女ゲームから出てきた王子様のように綺麗な顔立ちをしていて、その上中身まで紳士的な彼が、どういうわけかド平凡なわたしを気に入ってくれたらしく、何回かデートを重ねた後、正式にお付き合いすることになった。
お姫様のような扱いをされ、周りからも羨望の眼差しを向けられ、わたしは幸福の絶頂にいた。
だけど、その幸せは長くは続かなかった。
「ごめんね。僕、同じ人とあまり長く付き合わないようにしてるんだ」
半年ほど経ち、雪が積もった頃――彼は突然、別れてほしいと告げてきた。少しだけ申し訳なさそうに、だけど手慣れた言い回しで。
「莉子ちゃんに悪いところがあるとか、そういうわけじゃないんだ。本当にごめんね」
そんな言葉を残し、彼は呆然とするわたしの元から去った。
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