76人が本棚に入れています
本棚に追加
1-3 元カレが今カレのストーカーになっていた件
数日後。
休みが合ったので、昼過ぎから才造と会う約束をしていた。
一日だけなので旅行というわけには行かないけれど、街をブラブラして夕飯を済ませたあと、恐らくいつもの流れでお泊りになるはずなので、先日の桃のアドバイスを少し取り入れてみることにした。
いつもと雰囲気を変えて今日は少し大人っぽく、シフォンのロングスカートが主役のキレイめコーデにした。トップスはボディラインにフィットするフレンチスリーブのカットソー。桃の言うように谷間を強調という露骨なことはしないけど、Vネックからのぞく鎖骨と二の腕で肌見せを意識した。
オレンジブラウンの長い髪も、今日は肩下を巻いてハーフアップにしてみた。リップもいつものオレンジではなく、ピンクベージュをチョイス。姿見に全身を映し、後ろ姿まで抜かりなくチェックした。
「よし」
ディナーはいつも焼き鳥屋で済ませるところだけど、今日はオシャレなダイニングバーを予約した。夜景が見えると評判のお店だ。
そしてお互い借りているアパートが同じ地下鉄駅の徒歩圏内なので、一緒に出かける時はたいてい最寄駅で待ち合わせをしているけど、今日はオープンテラスのある街中のカフェを指定した。なんかその方が新鮮かなと思ったので。
『なんでそんなとこで? 先になんか用事でもあんの?』
と、昨夜電話で才造にそう問われたけど、いいから、とゴリ押しした。
そんなわけで昼下がり、大通りに面したカフェに到着すると、先に来ていた才造がテラス席に座り、気だるそうにスマホをいじっていた。普段から覇気がないけれど、何だかいつも以上に死んだ目をしている気がする。
「お待た♡」
そう声をかけながら才造の向かいの席の椅子を引くと、彼はスマホから目を離して顔を上げた。わたしの姿を捉えた瞬間、パッと目が見開く。表情はあまり変わらないけれど、少なくとも雰囲気がいつもと違うことには気付いたらしい。
「どっ、どうしたの?」
「別にどうも。今、可愛いって思った?」
「……思った」
棒読みで目をそらしたけど、反応が素直で分かりやすい。耳が赤い。可愛い奴め。やっぱ好き。会った瞬間から広がるこの空気感がこの上なく心地良い。
才造からも絶対的に受け入れられているという実感がある。それは目線であったり、声のトーンであったり、ただそこにいる時に纏う空気であったり。
ただ、普段からテンションが低くボーッとしている彼が、やはりいつも以上にどんよりしている気がした。
最初のコメントを投稿しよう!