1-3 元カレが今カレのストーカーになっていた件

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「さいぞー、なんか疲れてる?」  注文したカフェラテのカップを両手で包み込みながら、そう尋ねてみた。 「……そう見える?」 「なんか元気ないなーって。仕事、大変なの?」 「いや、疲れてるっていうか……その、ちょっと困ってて」 「え、どうしたの?」  何やら気まずそうに、彼は目線を泳がせながらモゴモゴと口ごもった。 「莉子にも言っとかなきゃと思ってたんだけど……」 「何?」  才造は眉間にシワを寄せ、深いため息とともに、完全に予想もしていなかったことを言い出した。 「莉子の前の彼氏って……ルイくん、とか言ったっけ?」 「へっ?」 「大崎(おおさき)(るい)……って奴?」  わたしは目をパチクリさせた。その名前を今更、それもまさか才造の口から聞くとは思っていなかった。 「……名前はそうだね、そんな人だったよ」  そう答えると、才造はさらにこんなことを聞いてきた。 「なんか色素が薄くて、ヒョロッとした感じ? 茶髪のちょいロン毛で、ピアスジャラジャラつけた、チャラい感じの……」 「えっ? いや、チャラいっていうイメージはなかったけど……どっちかっていうと、いいとこのおぼっちゃまって感じ? 体型はまぁ、スラッとして色白だったけど」  遥か彼方の記憶の中の累くんを思い起こしてそう答えると、才造は口元に手を当てて首を傾げた。 「じゃあ、別人なのかな」 「何? その人がどうしたの?」 「うちの会社に入ってきたんだが」 「はっ?」  話を聞くとこうだった。  つい先日――才造の勤める会社に新入社員が数名入ってきたらしい。その中に、やけに目立つ風貌の男がいたという。その時点で胸騒ぎがしたが、彼の自己紹介を聞いて才造はフリーズしてしまったのだとか。 『大崎累と申します。東京出身で、数年前に一度この近くのH大に入学しましたが、家庭の事情で退学して一旦東京へ戻り、この度また縁あってこちらへ移ってきました。どうぞよろしくお願いいたします』  そう言ってキラキラ光の粒を撒き散らしながら男が微笑むと、女性社員たちからキャーという黄色い声が上がった。 「……って、莉子が昔言ってた内容と一致してる気がするんだけど。考えすぎ?」  どよーんと、無数の縦線が入ったような顔で才造がそう言うので、わたしも少し顔を引きつらせた。
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