3-2 一妻多夫はできかねますが

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3-2 一妻多夫はできかねますが

「おめでとうございます♡ 推しカプの結婚なんて、これ以上喜ばしいことはないですよ」  馴染みの焼き鳥屋の半個室で、累くんに婚約報告をすると、彼は心から嬉しそうに笑い、はしゃいだ様子で祝福してくれた。涙ぐんでさえいた。  でも、わたしと才造には、彼に伝えなきゃいけないことがあった。 「それでね累くん、これからのことをさいぞーと二人でたくさん話し合ったんだけど……」 「俺から話す」  わたしを制して、才造が落ち着いた声で話し始めた。 「大崎には申し訳ないけど……俺はやっぱり莉子と二人で家庭を築きたいし、莉子もそうしたいと言っている」 「はい」 「だから、もうお前の出る幕なんて……」  そこまで言いかけて、才造はふるふると首を振った。普段のノリでSっ気を出しかけたけれど、それじゃダメだと思い直したらしい。 「じゃなくて――まぁ結論から言うとな、お前が望んでるような一妻多夫の関係になることは……正直できない」 「はい」  そう。累くんの理想としては、できることならわたしたちと家族になりたい。法律で多重婚が認められていない以上、籍は入れられなくても、事実婚のような形で三人でパートナー体制を取りたい。  事あるごとに冗談のような口調でそんなことを口走るけれど、どうも本気で言っているらしい。  実際に一夫多妻や一妻多夫で暮らしているという人をSNSで見つけてコンタクトを取り、話を聞いてみたり、コミュニティを作ったりもしたという。  参考になる部分もあったけれど、やはり累くんの目指しているような形とは違う人が大多数だったようだ。一般的には、たとえば夫一人、妻複数人の場合、妻同士で良好な関係を築いて協力し合うケースはあれど、妻同士の間に恋愛感情が芽生えることはそうそうない。そこが僕らとは違うと、累くんはそう力説する。 「莉子ちゃん×さいぞーさん、莉子ちゃん×僕、そしてさいぞーさん×僕、全方向が相思相愛で家族になるっていうのが理想なんだけど、そういう人って意外といないもんだねぇ」  ――と、そんなことをちょくちょくこぼしていた。  なので今、それを叶えてやることはできないと累くんに伝える席を設けているというわけだ。
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