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「でもね、わたしもさいぞーも、できることなら累くんにも幸せをつかんでほしいと思ってる。わたしたちの二番手じゃなく、誰かにとっての一番になって、幸せになってほしい」
「……莉子ちゃんもさいぞーさんも、それが僕にとっての幸せだと思います?」
「だからね、それは累くんが自分で決めてほしいの。こんな形であっても、わたしたちと一緒にいることが幸せだと思ってくれるんなら……そうしてくれると嬉しい。わたしもさいぞーも……累くんが好きだよ」
「……LOVEじゃなくてLIKEの方な」
才造がボソッとそう伝えると、彼はニッコリ嬉しそうに笑った。
「この先ね、もしかしたら累くんに好きな人ができるかもしれない。やっぱり自分が一番になれる恋をしたいって心変わりするかもしれない。もしそういう時が来たら……その時は、わたしたちは累くんの気持ちを尊重する。引き止めもしないし、出ていけとも言わない。だから……」
「分かったよ、莉子ちゃん。さいぞーさんも、ありがとうごさいます。お二人の気持ち、よく分かりました」
累くんはそこで目を伏せ、静かにひとつ息を深く吐いた。
「……僕は以前、ずっと悪夢に悩まされていました」
突然、真剣な眼差しでそんなことを言い出したので、わたしも才造も姿勢を正した。
「母の亡くなる何年か前から始まって、見送った後もしばらく続きました。母が毎晩のように夢に現れて、恨み言を囁くんです。その日によって内容は変わるけど、怒りをストレートにぶつけられたり、泣いて縋られたり、『お前のせいだ』と言いながら首を絞められたり、どこまで走って逃げても追いかけられたり……毎回、ひどい汗をかいて涙を流しながら目を覚ますんです。どこにいても、誰と寝ていても……莉子ちゃんは以前、きっと僕のその姿を見たよね」
コクンとわたしは頷いた。
恋人だった頃、一緒に眠ると、時々彼は誰かに謝ったり、許しを請うようなうわ言を呟くことがあった。苦しそうに顔を歪め、ひどい汗をかいていた。その時はまだお母さんが存命だった。
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