3-5 タマスィーに火を点けろ

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「でもよぉ頼人。なんぼ莉子たちにプロデュースしてもらうっつってもよ、俺らみたいなのがそんな急にオシャレになれるわけねぇべさ~」 「んだぁ。婚活っつってもよぉ、こんなんで上手くいくかどうだか……頼人みたいに気の利いたことも喋れねぇしよ」  農家メンたちが、兄に向かってそんな不安を漏らしている。だが兄はやけに自信満々な顔で仁王立ちの姿勢だ。 「俺のマネなんかする必要ねぇよ。おめぇらにはまず、意識の改革ってもんが必要だな。そこでだ。今日はな、ルックス改造の前に特別講師によるセミナーを受けてもらう。講師とそのアシスタント、カモーン!!!」  兄がそう呼ぶと、研修室のドアが開き、そこから累くんと才造が入ってきた。  黒髪になってもなお衰えないキラキラオーラを撒き散らしながら累くんが登壇すると、ちょっとしたどよめきが起こった。 「皆さん初めまして。ただいまご紹介に預かりました、講師の大崎と申します。こちらは僕のアシスタントです」 「草田……っす」  なんで俺が、と顔に書いてある才造が仕方無しにボソボソ自己紹介だけすると、累くんは堂々とした様子で演説を始めた。 「僭越ながら、今日は皆さんに、女性と接する時のスマートな所作、トークの進め方、お付き合いすることになった後のマナーなど、僕の経験から色々お伝えできればと思います」  なるほど。この道に関して、この人はプロと言ってもいいかもしれない……?  でも、受講者たちからはブーブーと不満の声が上がった。 「いや、したけどよぉ! アンタはそったらイケメンだから女を手玉に取るなんてのも簡単だべけどもなぁ!」 「んだんだァ! 俺らみたいなのがなんぼマネしたって無駄だべさァ!」 「そんだそんだ!!」 「いいですか、皆さん!!」  ヤジに対して、累くんがキリッと声を張り上げた。 「何も僕のようになれとは言っていません。なれと言っても無理なことくらい分かっています」 「さり気にマウントかよ」  横からアシスタント才造がボソッとツッコんだ。隣の累くんの耳には届いていないようだけど、部屋の最後方で見ていたわたしには分かった。
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