1-3 元カレが今カレのストーカーになっていた件

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 そしてわたしのことを認識した彼のその美しい顔が、にわかにパッと華やいだ。 「やっぱり、莉子ちゃんだよね!? わぁ、懐かしいなぁ。髪が伸びて……前よりもっと綺麗になったね♡ 元気にしてた?」  興奮気味の累くんがわたしの手をガシッと両手で掴んできたので、思わず振りほどいてしまった。 「げっ、元気……じゃなくて何!? なんでここに……ってゆーか、さいぞーとどういう関係!?」 「草田さんと? どういうって……絶賛片思い中?」 「いや、ニッコリしながらそんなこと言われても。累くん、ゲイだったの!?」 「違うよ、バイなんだ。男の人も女の人も両方イケるよ。昔、君のことが好きだったのも本当だしね♡」  ばいーーーーーーん………  と、わたしは口が開いたまま塞がらなくなった。当の本人は掴みどころなく、ずっとニコニコしている。 「ごめん、なんか色々情報処理が追いつかない。どこからツッコめばいいのやら……とりあえず、さいぞーがつきまとわれてるって、こーいうことだったの?」  その質問には才造本人が答えた。 「仕事中も休憩中も……トイレにまで、どこ行ってもまとわりついてくんだよ。休みの日に、会社の外でまで現れるとは思わなかった。まさかGPSとか仕込んでないだろうな?」 「やだなぁ、そんな犯罪行為はしませんよ。ただの偶然ですって。僕のアンテナが勝手に草田さん電波を受信してしまったのかもしれませんが」  そんなことを平然と言いながらバチーンと片目を瞑り、ペロリと舌を出す累くん。 「てへぺろりん、じゃねぇ。逆に怖い。俺ノーマルだし、彼女もいるからそーいうのやめてくれってずっと言ってんだけど……」  と、才造がわたしに弁明するように訴えたのでちょっと同情した。 「でも暖簾に腕押しなわけね?」 「そう」  わたしたちのそんなやり取りを気にも留めず、累くんはなおも舌好調で才造にまとわりついている。 「草田さんの恋人って、莉子ちゃんのことだったんですか? これは驚きですよぉ。一体どんな女性なのか、本当に草田さんに相応しい人なのかとヤキモキしてたんですが、莉子ちゃんなら納得ですよ。何せかつて僕も見初めた人ですからね。あ、席ご一緒していいですか? いいですよね。すみませーん、カプチーノひとつお願いしまーす」  と、ごくごく自然な動作で空いていた椅子に腰掛け、通りかかった店員さんに明るく呼びかける累くん。誰も許可してないし、一体何様の立場で言っているのかとツッコむスキすらわたしたちは与えてもらえなかった。
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