77人が本棚に入れています
本棚に追加
「……あれ以来、楼愛から毎日のように『累ちゃん、次いつ来るの?』ってSINEが来るんだけど」
「あははッ。お母さんはとうきびやらおかずやら色々持たせてくれるし、お父さんも次来たら鍬の振るい方を教えてやるって言ってくれたし、もはや神尾家の一員になってしまったね。次は草田家にもお邪魔して乗っ取ってもいいですか?」
「うちの家族は神尾家ほどフランクじゃない」
それでもこのコミュ力オバケならヌルッと溶け込みそうだ。
と、こんな愚にもつかない雑談を締めるかのように、累くんがポツリと言葉を漏らした。
「莉子ちゃんやさいぞーさんの生まれ育った場所を見られて、本当に嬉しかった」
「そぉ?」
「いい思い出になりそうです」
そう言った累くんの顔は、いつもと同じ穏やかな微笑みだった。でも、わたしの目にはなぜか翳りがあるように見えた。
「さて。それじゃ僕、今日はもう帰りますね」
「えっ、もう?」
「うん。明日、朝早いし」
「仕事、早く出なきゃいけないの? さいぞーも?」
「違うよ。ほら、明日から有給をもらって東京へ行ってくるつもりなんだ。母の法事で」
「あっ……明日からだっけ」
「そう。朝イチの便を取ったから、早く起きなきゃ。さいぞーさん、仕事に穴を開けて申し訳ないですが、よろしくお願いします」
「それは別にいいけど」
「累くん……大丈夫? その……また辛いこと思い出したり……」
なるべく言葉を選びながら尋ねるつもりだったけど、わたしはどうもそういうことがド下手くそである。どうにも直球になってしまう。
だけど、それでも累くんはフワッと笑ってわたしの頭を撫でた。
「心配しなくても大丈夫だよ。ありがとう」
いつもと同じ、柔らかい笑顔。余裕があって、隙がない。
だけど、わたしはその微笑みになぜか得体の知れない胸騒ぎを覚えた。
最初のコメントを投稿しよう!