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「……綺麗な人だね」
白いハードカバーの台紙に収められた写真には、淡いラベンダーカラーの着物を着こなしたたおやかな女性が写っていた。
「聡子さんっていうんだ。見た目だけじゃなく、所作も言葉遣いも美しくて。K大を出てるらしくて、話していても知的でねぇ。控えめだけど自分の意志もしっかり持ってるって感じ? その上語学も堪能で、料理も得意なんだって」
――まぁ、莉子ちゃんの魅力には及ばないけどね♡
なんていう言葉が続くのを、わたしは心のどこかで期待した。でも、累くんの口からそれが出ることはなかった。
逆に、莉子ちゃんとは正反対だねと言われた気さえする。
チクンと胸が傷んだ。
「あっ、あと服の上からしか見てないけど、胸も大きかったんだよねぇ。もちろん本人にはそんなこと言えないけど。この人となら上手くやって行けそうだなーって直感的に思って。だからこの話、受けることにしちゃった♡」
やけに明るく、アハハと笑いながらそんな風に彼は言ってのけた。
「この前、莉子ちゃんに言われたことも決め手になったかもしれないなぁ。『できることならわたしたちの二番手じゃなく、誰かにとっての一番になって、幸せになってほしい』って。そう言ってくれたよね」
確かに言った。自分が才造と婚約した時、わたしは確かに彼にそう伝えた。
「その時はさ、お二人以外の人となんて、そんなこととても考えられなかったけど……でも聡子さんと会ってみて、それもアリなのかもしれないなーって思えたんだ。何せ、断り続けていたのにずっと待ってくれていたわけだし? そんな一途にって思ったら、ちょっと感動しちゃってねぇ。だからこの人の一番になろうって、そう思ったんだ」
どうしよう。
本当なら、喜んであげなきゃいけない。累くんにもそんな人が現れたことを、祝福しなければならない。
その覚悟もあったはずだった。累くんの気持ちを尊重すると伝えた時、いつかこういう時が来ることも考えていたはずなのに。
なのに――どうして言えないんだろう。良かったね、おめでとうって。
これは嫉妬なんだろうか? 他の人のところになんか行ってほしくないっていう、超傲慢で、超自分勝手なワガママなのか。
でも何だろう、それも何だか違う気がする――
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