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3-8 本当のこと
「……ウソこいてんじゃねぇよ」
ぐるぐる考えながらわたしが押し黙っていると、才造がボソッとそんな言葉を発した。
顔を上げてみると、才造は腕組みしながら不機嫌そうに累くんをジロリと睨みつけていた。
「全っ然心にもないこと言ってんの、バレバレ」
「え~? やだなぁ、ウソじゃないですよ。僕は本心で……」
「ウソだろ。演技下手か」
それまでヘラヘラ笑っていた累くんの顔が、ヒクッと引きつった。
「……どうしてですか?」
「分かるに決まってる」
シーンと室内が静まり返る。
そう――わたしが抱いたのと同じ違和感を、才造も感じ取ったらしい。なのでここぞとばかりに横から口を出した。
「……わたしもさいぞーと同じように思った。累くん、なんか変だよ。ホントにこの人のこと好きで結婚しようと思ってる?」
そう伝えると、彼の表情が一転して、グッと泣きそうな顔になった。わたしも才造も、それを見逃さなかった。
でも、それはほんの一瞬だけだった。彼はすぐにまた口元に微笑みを浮かべ、心を持ち直した。
「何言ってるの、二人とも。僕は本当に聡子さんが……」
「本当のこと言ってよ!」
「本当だってば」
フフン、と。累くんは半笑いしていた。ともすれば、わたしたちを嘲笑するみたいに。
「お二人とも、ウソだって思いたいだけですよね? 僕が側にいれば何かと便利だし、3Pも楽しいし気持ちいいし、可愛い、愛してるって持ち上げられるのも気分がいいし、ただ都合良く僕を近くに置いておきたいだけなんでしょう。だからそう言って引き留めようとしている。本当の家族にするつもりもないのに……そんなのズルいですよ。こういう時が来たら僕の気持ちを尊重するっていうのも、ウソだったんですか?」
「ウソじゃないよ。累くんが本心で言ってるんならね」
わたしが強気でそう返すと、累くんの半笑いは消えた。そしてその瞳が潤む。
「累くんが……本当に、心から他の人を好きになったんなら、わたしは全力でおめでとうって言いたい。これまで累くんがわたしとさいぞーを推してくれたみたいに、累くんとその人のことを推しカプにするよ。決まってんじゃん。でも、今の累くんの言葉は本心じゃない。なんでかって言われても説明できないけど、そのくらい見抜けるくらいの………アレ、何? ほらアレ……絆!?」
ポロッと、累くんの目から涙が一滴こぼれた。
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