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「絆、あんじゃん!! 分かるよ!!!」
二滴、三滴と、次々こぼれ落ちる涙。ほら、やっぱウソじゃん。
才造もただ黙って累くんを見つめる。
「お願いだからホントのこと言ってよ! 何か、無理にでも結婚しなきゃいけない事情でもあるの!? それとも結婚自体がウソ?」
「ウソじゃない」
掌で涙を拭いながら、累くんは落ち着いた声を発した。グッと唇を結び、顔を上げて、まっすぐにわたしたちの方へ向き直した。
「結婚は本当。でも二人の言う通り、この人のことをまだ心から愛せてないっていうのは当たってる――けど、これから愛そうと思ってる。きっとできると思う。そうしたいんだ」
「どうして……そんなムリヤリ」
「辛くなったんだよ。二人のことをどれだけ愛しても、受け入れてもらっていても、決して本当の家族にはなれない。明日も明後日も、一年先も一緒にいられる確証がない。家族に紹介されて、温かく迎え入れてもらっても、結局はただの友達として。お盆やお正月の里帰りには一緒に行けない。今はそれで良くても、これから歳を重ねてもそんな存在でしかいられないと考えると、このままじゃいけないって思った。だから僕もちゃんと、陽の当たる場所を見つけようと思っただけだよ。理由、それじゃダメ?」
目を真っ赤にして、見たことがないくらい鋭い眼差しで見つめられ、わたしは思わず怯んでしまった。
「……何を今更、まっとうな人間みたいなことを」
才造がまたボソッと、忌々しそうに呟く。
「そうですよ。まっとうになろうとしていけませんか?」
才造も、それ以上は言い返せなくなった。
「……すみません。これまで言ってたことと180度違うので、お二人が戸惑うのも当然ですよね。要するに、ただの心変わりなんです。ごめんなさい、お二人のせいにするような言い方をして」
「本当に……それでいいの?」
「いいんだよ。僕にとっても、お二人にとっても」
才造が深く息を吐いたあと、静かに切り出した。
「……今のが、お前の本音なわけ?」
「はい」
「ファイナルアンサー?」
「ファイナルアンサー」
そんなやりとりを交わして、才造と累くんは半ば睨み合うようにお互いを見つめていた。
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