3-8 本当のこと

3/4
前へ
/236ページ
次へ
 たっぷりと時間をかけ、間をおいたあと、やがて才造がふっと視線を外した。 「……分かった」  静かに一言、そう告げる。累くんも俯きながら目を伏せた。 「本来、俺たちの方から突き放すべきだったんだと思う。それをせず、ぬるま湯に浸かって、これまで中途半端な状態でお前を縛り付けておいて悪かった」  累くんがふるふると首を横に降った。 「莉子ちゃんとさいぞーさんと……三人で過ごした時間がとても幸せだったのは本当です。だからこそ、僕もそのぬるま湯から抜け出せなかった。お二人も同じように思っていてくれたら……それ以上嬉しいことはありません」  もう、何て言葉をかければいいのか分からなかった。できることなら泣いてしまいたかったけど、多分それは違う。  おめでとう? 幸せに? それとも、ありがとう? はたまた――  カタッと椅子の音を立てて、累くんが立ち上がった。その顔には、もういつもの微笑みが戻っていた。 「あと一ヶ月ほどこちらにいますけど、もう気軽にここへ来るのはやめておきますね。最後に一度、お二人の顔だけ見に来ます」  穏やかにそう言い残して、累くんは自分のアパートに帰って行った。後に残されたわたしは呆然と立ち尽くし、才造はテーブルに頬杖をついたまま、ただ黙って考え込んでいるようだった。
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!

76人が本棚に入れています
本棚に追加