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「いや……今ね、ちょうど累くんらしき人が会社に入ってきたってことをさいぞーから聞いてたところだったんだけど……まさかいきなり会うなんて……あービックリした」
わたしがようやくそんな言葉を絞り出すと、累くんはしつこいくらいに爽やかな笑顔をこちらに向けた。
「僕もビックリだよ。いや、話せば長くなるんだけどね、前の大学をやめて東京に戻った後も色々あって。でも何だかんだでこの春、またこの街で就職することになったんだ。そこで草田さんと運命の出会いを遂げてしまったってわけ♡」
「運命……」
わたしは思わずドン引いた。性的マイノリティーに偏見があるわけではない。この頭のネジが何本か外れたようなはっちゃけっぷりに引いたのだ。見た目の雰囲気だけでなく、中身まで別人になっておる。
呆然としていると、彼は恍惚とした表情を浮かべてさらに熱弁を振るい始めた。
「草田さんと初めてお会いしたその日に、一瞬で恋に落ちたんだ。まさに僕のタイプドンピシャ、理想の人だったものだから……クールで仕事もできて最高にカッコいいのに、すごく可愛らしいところもあって……毎日『今日の草田さんはどこに寝癖がついてるかな?』って観察するのが今の僕の生きがいになってるんだ。この前もね、社食でお昼をご一緒した時っていうか、正確に言うと強引に向かいに座ったんだけど、その時に草田さん、醤油のフタが閉まってるのに一生懸命注ぎ口を傾けながら中身が出ないって心底不思議そうにしてたり……もう毎日毎日キュン死に寸前だよ♡」
「やだ超目に浮かぶわその光景。わたし以外にもさいぞーの可愛さが分かる人がいるなんて」
「共感すんのやめて。なんかバカにされてる気がすんだけど」
と才造にボソッと言われて、わたしはうっかり累くんのペースに乗せられていることに気付いてハッとした。累くんはアハハと笑う。
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