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「ねぇ、やっぱり累くん、まだ何か隠してるような気がしない? 全部本当のこと言ってるとは思えないよ」
累くんが去ったあと、しばらく考え込んでいた才造に、わたしはそっと声をかけた。すると才造は頭に当てていた手をだらんと降ろし、視線を床に向けながら大きく息を吐いた。
「……どこからどこまで本気なのかなんて、多分これ以上考えても分からん」
「だったら……もう一回話して……」
「けどな、本人が考え抜いて出してきた結論なんだよ。あそこまで言って覆らないんなら、俺らはもうそれを額面通り受け取るしかないんじゃないの」
「じゃあさいぞーは……このまま累くんと終わってもいいの?」
そう問いかけると、才造はまた少し考え込む素振りを見せた。でも、その間はそんなに長くはなかった。
「正直……情が湧いてたのはもう否定しない。いなくなると……物足りない」
ボソボソと、だけどはっきりそう漏らした。そしてさらに言葉を続ける。
「でも、だからこそ、アイツにとってどうすることが一番いいのか考えなきゃいけない。本人の意思を尊重するのが、今俺らにできることなんだと思う……」
そんな風に結論を出した。わたしは返す言葉を失い、それ以降はあえて彼のことを話題にしなかった。
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