3-9 兄、再び

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「さいぞーはまだ仕事。累くんは……一緒に暮らしてたわけじゃないし、毎日ここに来るわけでもないよ」 「そ? んじゃ、頼人さんが来てるから帰りに寄れってSINEしといて」 「いや……来ないと思うよ」 「なんで?」  答えられずにいると、桃が面白半分に口を挟んできた。 「なぁに~? あっ、もしかして三人で何かモメたとか?」 「モメたっていうか……」 「何よ?」 「……累くん、結婚するんだって。だからもうわたしたちとの関係は終わった」  もう面倒になったので、ハッキリキッパリ、そう言ってやった。すると兄と桃は絵に描いたように目を丸めた。 「ちょちょ、え、何? 結婚~!!? ウソでしょ、累くんが!!!??」  もう半ばヤケクソである。  累くんと話し合った内容を事細かく伝えると、二人は信じられないといった様子で耳を傾け、目を白黒させていた。 「……確認だけどな、お前ら、ホントに累と付き合ってたわけではないの?」 「じゃないよ。肩書はただの友達……いわゆるセフレ」 「だってさ、お前らのその別れ話、もう恋人のそれじゃん。完全に」 「そうね」 「でもマジかよ。この短期間で、まさかそんなことになってたとはなぁ」  兄は無精髭の生えた顎をさすりながらそんな感想を漏らした。 「だから累くんの言葉がどこまで本音か考えても分からないから、本人がもう日陰の存在でいるのが嫌だって言うなら、それを尊重してやんなきゃいけないって。さいぞーはそう言ってた」 「でもなぁ……累、アイツ俺と飲んだ時、自ら望んで二番手でいるとか、そんなようなことをすげーニコニコしながら言ってたから……あ、コイツ、ホンマモンのドMだわと思ったんだけど」 「そうよ。あたしもあの人は筋金入りの変態なんだと思ってたわ。あのアブノーマル思考、作ろうと思って作れるもんじゃないでしょ。今まで我慢とか演技でその立場に甘んじてたとは、到底思えないわ」 「やっぱり二人もそう思う?」 「当たり前よ! あの根っからの変態が急にそんなマトモなこと言い出すなんて、絶っっっ対なんか裏があるでしょ!! しかも経営者の叔父さんが勧めるお見合いって、怪しすぎない!!? 事件のニオイがするわ!!」  桃が急に探偵を気取り始めた。 「事件って……」 「だって、あんたたちからの待遇の不満が別れる理由だっていうなら、最初から素直にそれだけ言えばいいじゃない。わざわざ好きでもない相手と結婚する必要なんてないでしょ」 「それは……確かに」 「脅されてるとかじゃないの……!? ちょっと、累くんまだこっちにいるんでしょ!? やっぱり呼び出してみんなで問い詰めましょ!」  桃はヒートアップしたけれど、兄は思いのほか冷静だった。
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