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「さいぞーはまだ仕事。累くんは……一緒に暮らしてたわけじゃないし、毎日ここに来るわけでもないよ」
「そ? んじゃ、頼人さんが来てるから帰りに寄れってSINEしといて」
「いや……来ないと思うよ」
「なんで?」
答えられずにいると、桃が面白半分に口を挟んできた。
「なぁに~? あっ、もしかして三人で何かモメたとか?」
「モメたっていうか……」
「何よ?」
「……累くん、結婚するんだって。だからもうわたしたちとの関係は終わった」
もう面倒になったので、ハッキリキッパリ、そう言ってやった。すると兄と桃は絵に描いたように目を丸めた。
「ちょちょ、え、何? 結婚~!!? ウソでしょ、累くんが!!!??」
もう半ばヤケクソである。
累くんと話し合った内容を事細かく伝えると、二人は信じられないといった様子で耳を傾け、目を白黒させていた。
「……確認だけどな、お前ら、ホントに累と付き合ってたわけではないの?」
「じゃないよ。肩書はただの友達……いわゆるセフレ」
「だってさ、お前らのその別れ話、もう恋人のそれじゃん。完全に」
「そうね」
「でもマジかよ。この短期間で、まさかそんなことになってたとはなぁ」
兄は無精髭の生えた顎をさすりながらそんな感想を漏らした。
「だから累くんの言葉がどこまで本音か考えても分からないから、本人がもう日陰の存在でいるのが嫌だって言うなら、それを尊重してやんなきゃいけないって。さいぞーはそう言ってた」
「でもなぁ……累、アイツ俺と飲んだ時、自ら望んで二番手でいるとか、そんなようなことをすげーニコニコしながら言ってたから……あ、コイツ、ホンマモンのドMだわと思ったんだけど」
「そうよ。あたしもあの人は筋金入りの変態なんだと思ってたわ。あのアブノーマル思考、作ろうと思って作れるもんじゃないでしょ。今まで我慢とか演技でその立場に甘んじてたとは、到底思えないわ」
「やっぱり二人もそう思う?」
「当たり前よ! あの根っからの変態が急にそんなマトモなこと言い出すなんて、絶っっっ対なんか裏があるでしょ!! しかも経営者の叔父さんが勧めるお見合いって、怪しすぎない!!? 事件のニオイがするわ!!」
桃が急に探偵を気取り始めた。
「事件って……」
「だって、あんたたちからの待遇の不満が別れる理由だっていうなら、最初から素直にそれだけ言えばいいじゃない。わざわざ好きでもない相手と結婚する必要なんてないでしょ」
「それは……確かに」
「脅されてるとかじゃないの……!? ちょっと、累くんまだこっちにいるんでしょ!? やっぱり呼び出してみんなで問い詰めましょ!」
桃はヒートアップしたけれど、兄は思いのほか冷静だった。
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