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「いや待て待て。それは得策じゃない。そんな多勢に無勢でギャンギャン問い詰めたところで、余計に心を閉ざすのが人の心理ってもんだ」
「なんかおニィがマトモなこと言ってる」
「アイツ、大崎っつったな。それ、母方の苗字なのか?」
「うん。高校生の時に両親が離婚して、お母さんが親権を持ったから、その時に今の苗字になったって聞いたよ、確か」
「じゃあ、きっとその叔父とやらも同じ苗字だな? その会社の名前、分かるか? 業種とか」
「えっ? や、そこまでは聞いてないけど」
「叔父さんか母親の名前は?」
「知らない」
「んだよ。ここまで親しくしといて何も知らねぇのか」
「だって累くん、自分の親戚のことはあんまり話したがらなかったから……あ、でもお見合い相手の名前は聞いた。確か……聡子さん?」
「サトコ?」
そこまで話した時。玄関の方からドアの開く音がした。才造が帰宅したようだった。
「おかえり、さいぞー」
「ただいま」
「よぉ、邪魔してんぞ~」
「頼人さん……農家ってそんなヒマなんすか」
「随分なご挨拶だな、お義兄様に向って。そんなことより、話は全部聞いたぞ」
「何の」
「しらばっくれんじゃねぇよ。さいぞーお前な、累の上司っつったよな。アイツの身元とか、就職した時の履歴書でも調べりゃ分かんだろ。東京の実家の住所とか親の名前とか、なんか情報持ってこい」
「はぁ? なんでっすか」
「なんでじゃねぇよ! お前なぁ、ホントにこのままでいいと思ってんのかよ!!」
「いいも何も……アイツのしたいようにさせればいいんじゃないすか」
「うるせェよ! 累が本音言ってるかどうか分かんねぇだと? じゃあお前は、累に本音言ったのかよ!?」
そう指摘されて口ごもる才造。
「え……だから、アイツの意思を尊重するっていうのが俺の」
「綺麗事はいらねェェェんだよ!!!!!」
兄が声を荒らげたので、才造はビクッと固まった。
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