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「え……莉子……今、何て?」
わたしの顔を覗き込んだ母は、まだ笑顔だった。でも、口元が引きつっている。
「せっかくこうしてみんなに集まってもらって、喜んでもらってるのに、本当にごめんなさい。でも今……やっぱりこれ以上、結婚の話は進められない。わたし、さいぞーの他にもう一人好きな人がいる」
まるで凍り付いたように、その場がシーンと静まり返る。みんな唖然としていた。
最初にハッとしたように我に返り、青ざめたのはわたしの母だった。
「ちょっと……莉子、いきなり何言ってるの!!?」
「その人とさいぞーと、三人で家族になりたいと思ってる。だからもう一度、最初から考え直したいの」
「……どういうことだ、莉子?」
父も少し腰を浮かせるように前のめりになり、わたしの方を睨みつけた。
わたしは小さくかぶりを振る。
「いきなりじゃなくて、ずっと前から三人で一緒にいた。この前うちに連れて行った累くん……あの人と。しょっちゅう三人でごはん食べて、三人で寝て起きて……未成年がいる場所では言えないようなことも三人でしてた。もう何回も。あの人も、わたしにとってはさいぞーと同じくらい必要な存在。だから……」
「莉子ッ……何なのそれ!? 本気で言ってるの!?」
母が一番慌てふためいていた。それはそうだ。
でも、才造はまだ俯いたまま黙っている。顔からも汗が流れていた。
「莉子ちゃん……それは、うちの息子ではなく、その人と結婚したいということかい?」
才造のお父さんが顔面蒼白にさせながら、声が震えるのを必死に押さえようとしている。わたしはまた首を横に振った。
「さいぞーさんとも結婚したいし、その人とも結婚したいです。一妻多夫っていう形で」
ほぼ全員、言葉を失いさらに凍りついた。
ただ一人、兄がニヤリと笑っていた。面白くなってきた、という心の声が聞こえる。
それまでわたしに対して優しく、好意的だった才造の家族たちは、一気に不審な目を向けてきた。
「いっ……一妻多夫って……おっ、夫をふたっ、二人持つっ……ていうこと……? うちの息子が、そのうちの一人で……?」
「そんなことを許せるわけがないだろう! 君は……うっ、うちの息子をバカにしてるのか!!!?」
「えーっ!? 莉子ちゃん、それはさすがに引くわぁ……」
「ひどいわ……莉子ちゃん、いいお嬢さんだと思っていたのに……そんな浮気者だったなんて……!!!」
「違う」
自分の家族の言葉を遮るように、ついに才造が声を発した。
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