3-10 歴史的瞬間

3/4
前へ
/236ページ
次へ
「え……莉子……今、何て?」  わたしの顔を覗き込んだ母は、まだ笑顔だった。でも、口元が引きつっている。 「せっかくこうしてみんなに集まってもらって、喜んでもらってるのに、本当にごめんなさい。でも今……やっぱりこれ以上、結婚の話は進められない。わたし、さいぞーの他にもう一人好きな人がいる」  まるで凍り付いたように、その場がシーンと静まり返る。みんな唖然としていた。  最初にハッとしたように我に返り、青ざめたのはわたしの母だった。 「ちょっと……莉子、いきなり何言ってるの!!?」 「その人とさいぞーと、三人で家族になりたいと思ってる。だからもう一度、最初から考え直したいの」 「……どういうことだ、莉子?」  父も少し腰を浮かせるように前のめりになり、わたしの方を睨みつけた。  わたしは小さくかぶりを振る。 「いきなりじゃなくて、ずっと前から三人で一緒にいた。この前うちに連れて行った累くん……あの人と。しょっちゅう三人でごはん食べて、三人で寝て起きて……未成年がいる場所では言えないようなことも三人でしてた。もう何回も。あの人も、わたしにとってはさいぞーと同じくらい必要な存在。だから……」 「莉子ッ……何なのそれ!? 本気で言ってるの!?」  母が一番慌てふためいていた。それはそうだ。  でも、才造はまだ俯いたまま黙っている。顔からも汗が流れていた。 「莉子ちゃん……それは、うちの息子ではなく、その人と結婚したいということかい?」  才造のお父さんが顔面蒼白にさせながら、声が震えるのを必死に押さえようとしている。わたしはまた首を横に振った。 「さいぞーさんとも結婚したいし、その人とも結婚したいです。一妻多夫っていう形で」  ほぼ全員、言葉を失いさらに凍りついた。  ただ一人、兄がニヤリと笑っていた。面白くなってきた、という心の声が聞こえる。  それまでわたしに対して優しく、好意的だった才造の家族たちは、一気に不審な目を向けてきた。 「いっ……一妻多夫って……おっ、夫をふたっ、二人持つっ……ていうこと……? うちの息子が、そのうちの一人で……?」 「そんなことを許せるわけがないだろう! 君は……うっ、うちの息子をバカにしてるのか!!!?」 「えーっ!? 莉子ちゃん、それはさすがに引くわぁ……」 「ひどいわ……莉子ちゃん、いいお嬢さんだと思っていたのに……そんな浮気者だったなんて……!!!」 「違う」  自分の家族の言葉を遮るように、ついに才造が声を発した。
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!

87人が本棚に入れています
本棚に追加