3-10 歴史的瞬間

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「莉子が浮気者ってんなら……俺も同じ」  低くて重い声が、座敷に通った。  自分の息子まで何やらおかしなことを言い出したとあって、才造の両親はさらに混乱したようだ。 「さっ……才造まで、何を言い出すの!? あなたまさか……」 「ごめん、莉子……先に言い出させて」 「いいよ。さいぞーのそういうヘタレなところも、わたしは好きだから」  わたしはあえて笑顔を作り、才造に向けた。  足りない所は補い合えばいい。できる人ができる時にできることをして、支え合う。そういう家族になろうねと、前々から才造と話していた。それが三人なら、なおさら盤石になる。  だいたい、こういうことは男の方が言い出さなきゃいけないなんて決まりはない。  才造も情けなさそうに少し笑い、ひとつ大きく息を吐いて、自分の家族に向き直った。 「おっ、俺も……その、今の莉子の要望は、俺の要望でもある……から。俺もその男――大崎と……三人でいたい。俺にとっても……アイツはひつっ、ひつよっ、必要だから……」  相当勇気を振り絞っているのが分かった。 「莉子は一妻多夫って言ったけど、厳密にはそれも少し違う。莉子と俺、莉子と大崎だけじゃなく、俺と大崎もお互い……その、あっ、あいっ、あい………………愛し合ってる……から」  昨夜――  わたしは才造と夜遅くまで話し合いをした。と言っても、意見の衝突は全くなかった。お互いに本音を吐き出した結果、二人とも累くんを引き留めたい、累くんと一緒に生きていきたいという結論に至った。  だけど、才造の口から累くんに対する思いが出たのはこの時が初めてだった。だいぶぎこちなく、(ども)ってるけど。  それでもわたしとしては、かなりの歴史的瞬間――累くん本人にも聞かせてやりたかった。
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