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3-11 草田一家はたぶん作中唯一の常識人
才造のお母さんは、クラッと目眩を起こしたようだ。倒れそうになったのを、長男の幸造さんが支えた。
それでも才造は続ける。
「しっ……正気の沙汰じゃないのは、じゅ、十分分かってる。しかも、大崎もこのままじゃいけないって言って、今俺らから離れようとしている。けど、俺はアイツを行かせたくない。莉子と……さっ、三人で暮らしたい」
「才造、目を覚ませ!! 騙されて……いや、洗脳されてるだけじゃないのか!!? お前はボーッとしてるが、そういう良識だけは持っていると思っていたのに……!!!」
才造のお父さんが怒声を上げる。でも、その中の単語が才造に引っかかったようだ。
「良識……」
「そうだ、そんな人の道を外れるようなことをする人間ではないだろう!!」
「莉子も俺も納得の上……いや、むしろ全員が一緒にいたいって望んでても? 誰も傷ついてないけど、それでも人の道から外れてる?」
「当たり前だ!! 色々問題もあるだろうが!!」
「問題って……たとえばどんな?」
「たとえば……籍はどうする!」
「籍は……俺と莉子が入れていいって、前に大崎が言ってた。アイツ本人は事実婚みたいなもんでいいからって。そのへんはまぁ、まだ話し合いの余地があると思ってる」
問い詰められるほど、才造がなぜかどんどん冷静になって行く。淀みなく、噛むことも吃ることも減り、明朗に答えている。
とても頼もしく思えた。
だけど当然、そんな簡単に通る話ではない。
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